【病理学第一講座?皮膚科学講座の研究成果】           Science Translational Medicine誌に掲載! 日本人に多い皮膚がんにおける免疫抑制の仕組みを解明~メラノーマに対する免疫療法の新しい治療標的を発見~

医学部病理学第一講座  鳥越俊彦教授
医学部病理学第一講座  鳥越俊彦教授
医学部病理学第一講座  廣橋良彦准教授
医学部病理学第一講座 廣橋良彦准教授
医学部病理学第一講座 村田憲治特任助教
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医学部皮膚科学講座 宇原久教授
医学部皮膚科学講座  宇原久教授
医学部皮膚科学講座 箕輪智幸必威体育_必威体育app-平台*官网生
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 <研究の概要>
 必威体育_必威体育app-平台*官网医学部病理学第一講座の村田憲治特任助教?廣橋良彦准教授?鳥越俊彦教授らの研究グループは、同大皮膚科学講座の箕輪智幸必威体育_必威体育app-平台*官网生?宇原久教授との共同研究で、日本人に多いタイプのメラノーマにおける免疫環境を詳細に解析し、免疫応答の抑制メカニズムを解明しました。本研究では、メラノーマ周囲のリンパ球、特にがんと最前線で戦うT細胞に焦点を当て、その中でナチュラルキラー(NK)細胞に由来する抑制的なタンパク質がT細胞表面に発現し、T細胞の攻撃力を低下させていることを発見しました。本研究の成果により、がん免疫療法の新たな治療戦略が期待されます。
 本研究成果は、2024年12月5日公開のScience Translational Medicine誌にオンライン掲載されました。

<研究のポイント>
?メラノーマに入り込むひとつひとつのT細胞の遺伝子発現を解析する先端技術(シングルセル解析)を実施。
?自己と非自己を見分けるT細胞のアンテナ(T細胞受容体)が、がんを認識するかを解析。
?がんを攻撃するCD8陽性T細胞の一部が、活動にブレーキをかける新たなスイッチ(NKG2A)を持ち、
 がん細胞はHLA-Eを通じてNKG2Aスイッチを押すことでT細胞の攻撃力を抑えていることを解明。
?NKG2Aスイッチをブロックすると、CD8陽性T細胞の活動性が増強することを発見。
参考図
参考図
 <研究の背景>
 皮膚の色は、メラノサイトという細胞が産生するメラニンという色素の量で決まり、メラノサイトは皮膚に広く存在します。メラノサイトががん化した悪性腫瘍はメラノーマと言われる皮膚がんになります。がんが体の他の部分に広がった場合、5年後に生存している確率は約10%と非常に低いものでした。しかし、自分の免疫の力を利用してがんを攻撃する『がん免疫療法』が登場し、手術や放射線治療、抗がん剤治療に続く第4の治療法として、進行したメラノーマでも治療成績を改善しています。
メラノーマは発生する場所によって種類が分かれます。例えば、慢性的な日光暴露によって誘発される顔、体などの紫外線誘発型メラノーマと、日光と関係なく手のひらや足の裏にできる手足型のメラノーマなどです。欧米では、紫外線誘発型メラノーマが約80%を占めるのに対し、手足型のメラノーマは非常に少なく、全体の1%ほどしかありません。一方、日本では手足型のメラノーマが約50%を占めるという特徴があります。この違いから紫外線誘発型のメラノーマは欧米型、手足型のメラノーマは日本人型とも呼びます。
欧米型メラノーマは、紫外線による遺伝子変異が多く、変異したタンパク(ネオアンチゲン)はT細胞のよい標的で、免疫療法が効きやすいのが特徴です。しかし、日本人型メラノーマは紫外線をあまり浴びない部位にできるため、遺伝子変異が少なく、免疫療法の効果が欧米型ほど高くないことが課題となっています。これまでの研究は、欧米型メラノーマを中心に進められてきましたが、免疫の働きが異なると考えられる日本人型メラノーマについての研究はあまり進んでいませんでした。日本人型メラノーマは、日本が世界をリードして研究を進めるべき分野です。今回の研究では、日本人に多い手足型のメラノーマに入り込む免疫細胞を詳しく解析し、このタイプのメラノーマに適した免疫療法の新たな標的を探ることを目的としました。

<研究方法と成果>

1)日本人型メラノーマでは、がんを抑えるはずの免疫細胞が働きにくい状態になっていた
 治療前の手足型メラノーマ5例から、がんに入り込んだ免疫細胞を分離し、最新の技術を使って約38,000個のT細胞の遺伝子情報をひとつひとつ分析しました。その結果、CD4陽性T細胞には免疫の働きを抑える制御性T細胞集団が多く見られ、CD8陽性T細胞ではがんと闘う力が弱まった疲弊細胞が多いことが分かりました。さらに、欧米型メラノーマと比べても、手足型メラノーマには制御性T細胞が多く存在し、この細胞が免疫を抑え込む環境を作っている可能性が示されました。

2)T細胞が攻撃するがんの目印は、欧米型メラノーマでみられるネオアンチゲンではない
 がん細胞は特有の目印があり、T細胞はその目印を認識するためのアンテナ(T細胞受容体)を持っています。T細胞ごとにアンテナの種類は異なり、異なる目印をキャッチします。我々は、腫瘍に入り込んでいるCD8陽性T細胞のアンテナの遺伝子情報を調べ、その情報を元に同じアンテナを持つT細胞を人工的に作りました。それを患者さん由来のがん細胞と一緒に培養したところ、20種類のアンテナのうち13種類ががん細胞に反応しました。さらに、反応した13種類のT細胞がキャッチしている目印を調べた結果、遺伝子変異をもったタンパク(ネオアンチゲン)ではないことが分かりました。つまり、欧米型メラノーマと手足型メラノーマでは、T細胞の攻撃対象が異なっている可能性が示されました。

3)がん細胞を攻撃するT細胞は、反応を止めるブレーキももつ
 腫瘍に反応するアンテナ(T細胞受容体)を持った2,449個のCD8陽性T細胞をさらに詳しく調べた結果、新たな発見がありました。がん細胞に反応するT細胞には、増殖力が特に高く、がん細胞を攻撃する能力に優れたグループが存在することが分かりました。これまで、腫瘍に反応するT細胞はさまざまな種類のブレーキとなるタンパク質(免疫チェックポイント分子)を発現することが知られていましたが、その発現にはばらつきがありました。今回の研究で、特にそのグループが、NK細胞という別の細胞が本来持つとされていた「NKG2A」というブレーキを多く発現していることが明らかになりました。

4)新たな免疫チェックポイント分子NKG2Aが免疫抑制のカギを握っていた
このNKG2Aを標的にした抗体でブレーキが入らないようにすると、がんに反応するT細胞がさらに活性化し、がん細胞を攻撃する力が高まりました。さらに、現在治療に使われているPD-1を標的とした抗体とNKG2Aを標的とする抗体を併用すると、相乗効果が確認されました。この結果から、日本人に多い手足型メラノーマでは、PD-1だけでなくNKG2Aも免疫を抑える重要なブレーキである可能性が示されました。

<今後への期待>
 本研究では、手足型メラノーマの大きな特徴2点を解明しました。1点目は、腫瘍に入り込んだT細胞は、紫外線誘発型メラノーマと異なり、ネオアンチゲンを標的としていないこと、2点目は、PD-1のみならず、NKG2Aという、新たな免疫チェックポイント分子が免疫抑制のカギとなる可能性があることです。このように、患者検体を1細胞レベルで解析する事により、これまで見えていなかった現象が解明できるようになりました。今後、手足型メラノーマにおける腫瘍に浸潤したリンパ球の腫瘍反応性に焦点をあてた研究が加速されると思われます。また、1細胞免疫プロファイリングから得られた知見は、手足型メラノーマにおけるより洗練された免疫療法アプローチの開発に道筋を開くことが期待されます。

<用語説明>
*1 T細胞
 リンパ球の一種であり、免疫システムにおいてがん細胞やウイルス感染細胞の排除に中心的な役割を果たします。T細胞は標的細胞の表面にあるHLA分子(ヒト白血球抗原)を通じて抗原ペプチドを認識し、それによって自己と非自己を区別して攻撃するかどうかを決定します。

*2 NKG2A
 腫瘍組織に浸潤するNK細胞やT細胞には、NKG2Aという抑制性受容体が発現しており、CD94と複合体を形成することで、腫瘍細胞が発現するHLA-E分子と結合します。この仕組みを通じて、がん細胞は免疫細胞の攻撃を回避し、免疫逃避を可能にしています。多くの固形がんや血液がんでHLA-E発現の亢進が観察され、さらにいくつかのがん種では、その発現のレベルと予後の悪さとの関連性が示されています。

*3 ネオアンチゲン
 がん細胞の突然変異によって生成される新しい抗原であり、正常な細胞には存在しない、がん特有のタンパク質断片です。これにより、免疫システムにとっては異物として認識されやすく、がん免疫療法の効果的な標的となります。

*4 PD-1(Programmed Cell Death Protein 1)
 免疫細胞であるT細胞やB細胞、NK細胞などの表面に発現する受容体の一つで、免疫応答を調節する重要な役割を果たします。免疫チェックポイントと呼ばれる分子群の一部で、PD-1をターゲットにした免疫療法(抗PD-1抗体)は、がんの治療において革新的なアプローチとなり、多くのがん種において新たな治療の選択肢を提供しています。

<謝辞>
 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の次世代がん医療創生研究事業(研究代表:金関貴幸、鳥越俊彦)、世代がん医療加速化研究事業(研究代表:村田憲治、廣橋良彦)、日本学術振興会研究助成事業、必威体育_必威体育app-平台*官网附属研究所免疫プロテオゲノミクス共同研究拠点、大阪難病研究財団の支援をうけて実施されました。

<論文発表>
公表雑誌:Science Translational Medicine

論文名:
Single-cell profiling of acral melanoma infiltrating lymphocytes reveals a suppressive tumor microenvironment

著者:
Tomoyuki Minowa1,2, Kenji Murata1,3*, Yuka Mizue1, Aiko Murai1, Munehide Nakatsugawa4, Kenta Sasaki1, Serina Tokita1,3, Terufumi Kubo1, Takayuki Kanaseki1,3, Tomohide Tsukahara1, Toshiya Handa1,2, Sayuri Sato2, Kohei Horimoto2, Junji Kato2, Tokimasa Hida2, Yoshihiko Hirohashi1*, Hisashi Uhara2, and Toshihiko Torigoe1

1Department of Pathology, Sapporo Medical University School of Medicine, 060-8556 Sapporo, Hokkaido, Japan
2Department of Dermatology, Sapporo Medical University School of Medicine, 060-8543 Sapporo, Hokkaido, Japan
3Joint Research Center for Immunoproteogenomics, Sapporo Medical University School of Medicine, 060-8556 Sapporo, Hokkaido, Japan
4Department of Pathology, Tokyo Medical University Hachioji Medical Center, 193-0998 Hachioji, Tokyo, Japan
*Corresponding authors

公表日:
2024年12月4日米国東部時間

発行日:

情報発信元
  • 病理学第一講座?皮膚科学講座